~私の好きなもの、好きなこと、興味のあることをあれこれと綴るブログです~

【読書】会話ができない人が思っていることを知ることが出来たら

言葉を発することを出来ない少年が、どんなことを思い、考えながら日々過ごしているのか。彼の頭の中は、どうなっているのか。

なぜ自閉症の子は、突然大声をあげたり、手をぱたぱたさせたりするのか?

 

そんな、知りようもないことを知れてしまう、すごい本に出会った。

 

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自閉症のぼくがありがとうを言えるまで」

 

著者 イド・ケダー 訳者 入江 真佐子

出版社 飛鳥新社

分類 ノンフィクション

出版日  2016/10/15



アメリカ人の自閉症の男の子、イド・ケダー君が書いた本。書いた、というか、文字盤という道具を使って、思いを文字に変換して綴った本だ。

 

これはなかなか衝撃的な本であった。会話ができない自閉症の子だけれども、頭の中ではこんなにもたくさんのことを考えているなんて!誰もがこれを読むと驚くと思う。私も最初は、これ本当にこの子が書いてるの?って疑問に思うほどだったから。

 

よく自閉症の人の特徴として手をパタパタさせたり奇声を発したりということがあるけれども、そうしてしまうことの理由を、自閉症の子本人が綴っているのだからすごい。そして読めば読むほどに、これはその本人にもどうしようもないことであり、周りにしてみれば周りにしてみたで、どう対処していいか本当にわからなくて。誰も悪くないし、誰のせいでもないのだけれども、うまく噛み合っていない事っていうのが世の中には多いよね…ということ。いやというほど感じさせられた。

 

この彼のケースが全ての自閉症の人に当てはまるわけでは全然ないけれども、それでも、自閉症にはこういうケースがあるのだということ。何よりも、「言葉にはできなくても人は頭の中で色んなことを思っているし多くの感情を抱いている」という当たり前のことを、彼は強く思い出させてくれた。

 

訳文自体もとても読みやすくて、すいすいと読み進めることができた。(レビューによると、原書はもっと長くて文章も複雑みたいだけどね)

でも、誰にでもとっつきやすく、読みやすいというのはとてもいいこと!

 

この本は実は私が選んで読んだわけではない。夫が買ってきたものだった。夫の同僚の方に子供さんが自閉症という方がいらして、その人に勧められた本だそう。夫の本棚にこの本を見つけた時はちょっと驚いた。だって、夫と自閉症というワードは全然結び付かなかったから。きっかけはいろいろでいい。夫はこれを読んで、やはり、すごく心動かされたみたい。

 

私と自閉症の関わりといえば、落語で自閉症を学ぶ動画、

「みんなちがってすてきだね」の制作プロデューサーとして関わったことが大きい。

 

 

自閉症の人とその周囲の方々をサポートする仕事を長年されている山口久美さんと一緒に、自閉症を理解するための動画作品を作ったのだ。その経験により、ずいぶん私は自閉症についての理解が深まったのだけれども、だからこそこの本で綴られている内容がズシンと響いた。私が学んだ通りだ!と思った。ほんとうに、「自閉症あるある」がたくさん書かれていて、すごいのは、なぜそうなるのかの理由まで書かれていることだ。

 

なんというか、自分の頭の中の知識と、自閉症であるイド君の語りが、私の中で気持ちよくリンクして。目の前がパーっと開けたような、そんな気持ちよさを持ちながら、この本を読み進めることができた。

 

(なので、本を読む前に、この動画で学ぶのがとてもオススメ)

 

 

以下、イド君の語録を本書から抜粋。

 

『「できること」にフォーカスする

これまでの自閉症教育は、ぼくたちの障害や「できないこと」にばかり焦点をあててきたということだ。

どんなに努力をしても、ぼくの身体ではできないことがある。

 

もししゃべることだけに焦点をあてられたら、ぼくは身動きがとれなくなってしまう。だってそれは「能力」じゃなくて、「できないこと」だから。』

 

『ぼくの人生を有意義なものにするためには、なにもふつうになる必要などないのだ。

考える自由、愛すべき友達と家族、それから「どんな人生も完璧じゃない」と知ること。』

 

『人生、なにが起こるかを予見するのはむずかしい。

人生に期待するのはさらにむずかしい。

なんの前ぶれもなくひどいことが起こることもある。だから毎日を贈り物をもらったように暮らすのがいい。』★これ本当に好きな部分★

 

『「人は、自分と違っているものを恐れる」

これが現実だ。

自閉症だけじゃない。外見もそうだし、文化もそうだし、なんにでもあてはまる。』

 

…こんなふうに、とても深い言葉が、この自閉症の少年から発せられるわけだ。深いよ、とても。ぽんぽんと口から言葉を出せないぶん、内省して内省して、ぎゅっと、エキスのような深い言葉を文字盤を使ってしぼりだしてくれている。そんな風に私は受け止めました。

 

本人も最後に書いている通り、すごくすごく、彼は成長していっている。それが、読み進むうちに手に取るようにわかるから、読み手としてもとても嬉しい。12歳から15歳のこころの成長を、こんなにリアルにストレートに伝えてくれる本自体、そうそうないと思う。自閉症であり、また、素晴らしい書き手でもあるイド君なのだ。

 

なおアマゾンでは紙の本がえらい高価なことになっているみたい。kindle版だと1188円です。中古はいくつもあるようです。私はこれは売らずに大切に持っていたい1冊。

 
自閉症のぼくが「ありがとう」を言えるまで

 

※せっかく最近また読書にはまっているので、備忘録として、ブログにもこんな風に読んだ本のことを書いていこうと思います。